ネットランナー会レポート 21.12.10 『市民、より良くなることは義務です』
『市民、幸福は義務です。』
TRPG「パラノイア」で繰り返し聞くことになる有名なフレーズ。
全能なるコンピュータ(様)、アルファ・コンプレックスは完璧な存在であり、それに管理される市民は皆幸福である。幸福でない市民は反逆者だ。
そんな無茶苦茶な理屈でしょっちゅう処刑されるので、プレイヤーが死ぬたびにそのクローンがやってくる。
個々に課せられた無理難題をやり遂げるため、時には仲間を陥れ(他人に過度に協力する奴は共産主義者だ!)、幸福で忠実な様を示すためにより良い市民であろうとする。そんなディストピアを楽しめるらしいのがこのゲームだ。まだ遊んだことないけど。
そんな狂った世界観がとても好きなので、これをデジタルゲーム化した『Paranoia: Happiness is Mandatory』の発売をまだかまだかと心待ちにしている。
そうそう、アンドロイド:ネットランナーで市民と言えばこのカード。
《Better Citizen Program》!
ランイベントなんて素行が悪い。ハッキングプログラムなんてもってのほか!とばかりに、規範から外れる行動をするたびに監視の目がきつくなる。
これがあれば企業にハッキングを仕掛けて悦に浸ったり、お金を盗んだり、反体制活動をするような輩もきっと改心してより良い、ひいては幸福で完璧な市民になってくれることだろう。
ちなみに《Better Citizen Program》は日本語版も出ているが、そちらでは「ランイベント」ではなく「イベント」でタグが付くように誤訳されている。プレイする際は要注意だ。
ランナーの悪行(?)によってタグが付くこのカードはタグによって利益を得る《NBN: Reality Plus》とぴったり。
強いランイベントを使って早期決着を狙ってくるランナーのメタになるし、《Ping》と《Keegan Lane》のコンボを試そうとしていた私は早速デッキを組んでネットランナー会に持ち込んだのであった。
繰り返しになるが、《Better Citizen Program》は1ターンに一度、ランナーがランイベントをプレイするかアイスブレイカーをインストールするたびにタグを付ける効果を持っている。
ゲーム序盤に得点できればそれだけ沢山発動機会があり、アイスブレイカーがインストールされ終わったような終盤ではほとんど意味をなさない。
どれだけ早く得点できるかが勝負だ。
対戦が始まる。相手は《Zahya Sadeghi: Versatile Smuggler》。
ゲーム開始時の手札。
《Better Citizen Program》とICEとクレジットソースが2枚。なかなか悪くない。
欲を言えばICEは2枚欲しいところだが、そのうち引いてこれるだろう。
追加のICEを引けなかったので、少し悩んでHQを守る位置にインストール。
相手はHQを攻めるのが得意なCriminal派閥。《Diversion of Funds》でクレジットを盗まれるのは避けたいところ。
相手の最初の攻撃はR&Dへの《Jailbreak》!
マルチアクセスで攻めつつZahyaの能力でクレジットを稼ぐ算段か。ドローも付いて一粒で三度おいしい。っていうかCriminalなのにR&D攻めるのも得意ってズルくない!?
幸い計画書にはアクセスされなかった。繰り返し攻められないように早いところR&DもICEで塞いでしまいたいところ。
ところが、ドローしてもドローしてもICEは見当たらず、それどころか2枚目の計画書を引いてしまう。
このままICEを引けないまま手をこまねいていれば、HQはいずれ計画書で溢れ《Legwork》されてしまうことだろう。
何より《Better Citizen Program》は鮮度が命。さっさと得点してランナーの教育を開始してしまいたい。
最後のクリックで裸の遠隔サーバーに《Better Citizen Program》をインストール。
これはかなり危険な行為だが、裸のR&Dに気を取られて遠隔サーバーを無視する可能性に賭けることにした。
ICEでランナーの侵入を阻んでから計画書の得点に挑戦するのが普通だが、リスクを冒せば手順をすっ飛ばして大きなリターンを狙えるのもこのゲームの魅力。ブラフ大好き!
ランナーは《Blockade Runner》で2クリック3ドロー。そして《Obelus》をインストールしてR&Dへのランを継続。
なるほど、ランからクレジットだけでなくドローも生み出す算段か!
予想通り遠隔サーバーは無視されたため、前のターンにインストールしておいた《Better Citizen Program》に《Seamless Launch》をプレイ。4アドバンス目を終えて得点!
計画の第一段階は整った。
これから相手はアイスブレイカーをインストールするたびにタグに苛まれることになる。それに、マルチアクセスのために強力なランイベントを複数所持しているに違いないのだ。
うししし、ランナーを教育するぞ!!
事実、ここからランナーは《Better Citizen Program》に悩まされていくことになる。
ランナーの攻撃。《Docklands Pass》をインストールしてからのHQへの《Jailbreak》!
しかしHQを守っているのは既にレゾされた《F2P》。
通常ならばアイスブレイカーなしでもクレジットを用いてサブルーチンのブレイクが可能だが、タグが付いているなら話は別。
《Jailbreak》はランイベントなのでプレイした瞬間《Better Citizen Program》の効果発動。タグによってランナーを良い市民になれよと矯正していく。
《NBN: Controlling the Message》や《AR-Enhanced Security》と違ってランナーが何かする前からタグが付いて行動を阻害するという点がとてもいやらしい。
このままでは被害甚大なので、この《Jailbreak》は/undo-click*1でなかったことにして、代わりに普通のラン。
タグまみれになったランナーを吹き飛ばす予定だった《BOOM!》は見つかってしまいトラッシュ。
こうして脅威の存在を意識させることでランナーは《BOOM!》を対策せざるを得なくなる。……ぶっ放せば勝ちなのでバレない方がよかったけど。
ランイベントを使いたいランナーは中央サーバーを守るICEを突破しなければならないのでアイスブレイカーをインストールするも、やはり《Better Citizen Program》によるタグは重くのしかかる。
コスト1の《Mayfly》をインストールしてもタグ。これを剥がすのに追加で1クリックと2クレジットの消費。ランナーのテンポを奪うと同時に財布も絞め上げる。
ランナーのペースは落ちた。どんどん攻めていこう。
《Orbital Superiority》を得点。ランナーにタグを与えて更に負担を強いる。
などなどやってるうちにランナーはタグを剥がすのを諦め攻撃開始。
コーポの勝ち筋が《BOOM!》によるフラットラインであれば、それを撃たれるまえにトラッシュするか、7点盗めばよいのだ。
殺される前に勝つ!と腹を括ったランナーをもうタグで牽制することはできない。
《Funhouse》はもはや紙切れだ。
吹っ切れたランナーの攻撃は激しさを増していく。もう5タグ付いてるが気にする素振りは見せない。
こういう手負いの獣は一番危険。素早くトドメを刺そう。
序盤に得点できた《Better Citizen Program》はランナーのテンポを大きく阻害し、勝利に貢献した。
では、序盤に得点できないとどうなるかというと――
――こんな見事なリグの成長を許してしまう。
このゲームでは多くのアイスブレイカーが使用されたのでその分の負担を強いれていたはずだった……が、そうはならなかった。
《Better Citizen Program》についてはNetrunnerDBでもレビューされている。
「序盤に得点できれば強い」は「序盤に得点できなければ弱い」。
その弱点をどう克服するかが腕の見せ所だね。
*1:アクションを1つ巻き戻すJinteki.netのコマンド