Unfathomable(アンファゾマブル) レビュー
1993年。蒸気船アトランティカ号が大西洋を横断するために出港してから二日が経とうとしていた。ボストンまで穏やかな船旅を楽しめると期待していた乗客たちだったが、奇妙な噂が流れ始めるとともにその期待は裏切られることとなる。夜な夜な見る奇妙な悪夢、船を追跡する波間の影、礼拝堂での殺人および謎の儀式の跡……。普段と変わらないはずだったアトランティカ号の航海が無事に終わるのかどうか、誰にもわからなくなっていた。
――ということで、ボードゲームUnfathomableの紹介。プレイ人数3~6人。プレイ時間は3時間ほど。
結論から言えばとても良くできていて面白いゲームだった。
航行を健全化せよ
不穏な空気に耐えきれずパニックになる人々、船に乗り込み破壊の限りを尽くす"深き者"、尽きていく燃料/Fuel・食料/Food・正気度/Sanityに人命/Souls。このままではいずれ船は航行不能に陥ってしまうだろう。
プレイヤーはたまたまこのアトランティカ号に乗り合わせた人々であり、勇気と実力とリーダーシップを兼ね備えている。このパニックをどうにか収め、船が航行不能になるまでにボストンに到着すれば勝利だ。……もしあなたが最後まで人間であればだが……。
Unfathomableはバトルスター・ギャラクティカ/Battlestar Galacticaのクトゥルフ神話版リメイク。『人間』プレイヤーは協力してこの船で起こる様々な問題に対処しつつ、船をボストンまで進めることが目的となる。
しかし、中にはそうでないプレイヤーも混じっている。Unfathomableは正体隠匿要素のある協力型のボードゲーム。ゲーム最初に配られる忠誠カードによって『ハイブリッド*1』となったプレイヤーは『人間』のフリをして皆の目を欺きつつ、船を破壊しようとこっそりと妨害を仕掛けてくるのだ。最近流行ったAmong Usみたいなことをするゲームである。
あなたが船長
ゲームが始まる前にキャラクターカードを受け取ろう。キャラクターはアトランティカ号の乗員・乗客はたまた密航者の面々。それぞれ異なるステータスやアビリティを持っているほか、この状況を収めるリーダーとしての相応さの順位も設定されている。ゲーム開始時には最もリーダーに相応しい人物が新たな「船長」としてアトランティカ号の行く末を決断していくこととなる。みんなー! 船長の言うことを聞けー! 船長、みんなの命はあなたにかかっているぞ!
儀式跡で見つかった謎の本についてだが、――内容はよくわからないし、たまに勝手に動いたり光ったりしてそうな――怪しげな雰囲気を漂わせていて、放っておいたらなんとなく危なそうだ……ということで、この本の管理者も、オカルト的なものの扱いが上手そうみたいな順位によって決定される。えぇ、嫌だよ私こんな怪しげな本持つの。。
危機を解決せよ
各手番ではキャラクターのパラメータに応じたスキルカードを引き、アクションを実行し、そしてMythosカードを引いて解決する。
スキルカードは知識/Lore、意志力/Will、観察力/Observation、影響力/Influence、筋力/Strengthがあり、それぞれに1~5の数字と、数字に紐づく能力が用意されている。数字が大きいほど強力だが、その分希少。1のスキルカードは7枚ずつあるが、5のスキルカードはたった2枚しかない。これらのカードはアクションとして消費できるほか、後述のスキルチェックでも使用する。
Mythosカードには悪いイベントである危機/Crisis、モンスターのアクティベーション指示、船もしくは儀式のいずれのトラックを進めるかが記載されている。危機はいわばアトランティカ号に発生する何かしら悪い出来事で、プレイヤー達にどのように解決するかを迫る。
危機の解決方法は主に2つ。
1つ目はプレイヤー全員で力を合わせスキルチェックをパスするもの。スキルチェックはプレイヤーが順番に自分の手札からカードを伏せて出し(出さないことを選んでもよいし、複数枚出してもよい)、全員が出し終わったら、いろんなスキルが混ざったカオスデッキから2枚追加しシャッフルしてから公開する。対応するスキルアイコンのカードの数字を合計し、目標値に達していればOKだ。ただし、要求されていないアイコンのカードが混ざっていればそれはマイナスとしてカウントされる。カオスデッキから紛れ込んだのかもしれないし、もしかしたら誰かが邪魔をしているのかも……?
2つ目は誰か一人が結末を選択するもの。この場合大抵は手番プレイヤーか「船長」であるプレイヤーが決めるように指示される。「船長」の権力は絶大だね。
陣営が決まるのは後半から
面白いことに、このゲームではプレイヤーが『人間』か『ハイブリッド』かを決める忠誠カードをプレイヤー人数の2倍用意する。半分――つまりプレイヤー人数分はゲーム開始前に配り、残り半分は船が目的地半ばまで進んだゲーム後半に配る。
プレイヤーはゲーム後半時点で2枚の忠誠カードを手にするわけだが、この中に1枚でも『ハイブリッド』が含まれていればそのプレイヤーの陣営は『ハイブリッド』になる。これが何を意味するのかというと、ゲーム後半で受け取った忠誠カードによって突然『人間』だったプレイヤーが『ハイブリッド』になったりすることもあるということ。もちろん最初から『ハイブリッド』として暗躍している可能性もあるわけだが……。
手札の状況によってはMythosカードの危機を上手く解決できなかったりという状況はどうしても発生する。たまたま協力できないのか、そもそも協力する気がないのか。2枚目の忠誠カードが配られればその疑心暗鬼はさらに加速する。ゲーム前半に必ずしも裏切り者がいるか定かでないおかげで多少怪しくても疑っていいのかどうかひじょーーーに悩ましくなる。この仕組みはとても良くできていると思う。
怪しい奴は営倉にぶち込め
船は甲板と船室からなり、船室にはそれぞれ特殊なアクション等が用意されている。その中には営倉/Brigつまり牢屋があるため、航行の健全化に非協力的な裏切り者と思わしきキャラクターを閉じ込めておくことができる。
閉じ込められたキャラクターはスキルチェックのときに最大1枚しかスキルカードを出せなくなる。また、Mythosカードの危機も解決しない。もし本当に裏切り者であれば、スキルチェックで妨害されにくくなるばかりか、危機の回数自体も減って被害を最小限に抑えられると良いことずくめ。
営倉にいる間はそこから自由に移動できなくなるが、営倉のアクションによるスキルチェックで脱出を試みることはできる。しかし、前述の通り営倉にいるキャラクターはスキルカードを1枚しか出せないため、他のキャラクターの協力がなければ脱出はほぼ不可能。俺は無実だーー!!と周囲に訴えかけて出してもらうまで大人しくしていよう。
営倉送りになったキャラクターが「船長」や「本の管理者」だった場合はその権限ははく奪され、その次に相応しいキャラクターが再任命される。もし『ハイブリッド』が権限の強い「船長」になっていた場合、アトランティカ号はかなり危うい状態にある。さっさと営倉にぶち込んで船のコントロールを『人間』の手に取り戻そう。
ええい、人間のフリをするのはもうやめだ
『ハイブリッド』たちは最初からそうであった者も途中から変化したものも含めて、水かきやエラを隠し人間に擬態している。上手く行動していれば外見から判別できないあなたたちが裏切り者であることはバレようがないだろう。しかしもし、擬態してでの活動に限界を感じたならば、その正体を現し明らかに敵対することも可能だ。
正体を明かすと同時に人外の力が解き放たれる。他のキャラクターや乗客を攻撃できるようになり、"深き者"同様に自分のいる船室の能力を無効化。更に裏切り/Treacheryのスキルカードも扱えるようになるなど、より一層アクティブな妨害活動ができるようになる。例え営倉に閉じ込められようと人外の力を得たあなたにもはや止められるものはなく、大量の手札を失う代わりにスキルチェックなしに脱走も可能。ひゃっはー! 暴れるぜ!!
しかしメリットばかりではない。『人間』でないあなたの意見を聞く者は当然いなくなる。「船長」や「本の管理者」からは外され、スキルチェックにも最大1枚しかカードを出せなくなるうえ、Mythosカード自体も引かなくなる。危機の発生やモンスターのアクティベーションの機会がそれだけ減ってしまうことに注意しよう。
外見で敵味方が判別できるようになることで”深き者”から攻撃されなくなる代わりに、『人間』から攻撃されるようになることも忘れてはならない。負傷したら即営倉送り。すぐに脱走してやるがな!
正体を明かすことにメリットもデメリットもあって、いつどのタイミングでそうするかが非常に悩ましい。このあたりはかなり個人のプレイスタイルが出るだろう。
その本、暴発するよ
この本なんなんだ死体のそばに落ちてたし気味が悪い……。なんか詳しそうだからと押し付けられた謎の本。「本の管理者」になっているプレイヤーは本の力を使うことができ、アクションとして呪文/Spellデッキからカードを2枚引いてそのどちらかを解決できたりする。ただ、強力な効果を発揮する代償に何かを――大抵の場合は正気度/Sanityを――失うため乱用は禁物。
Mythosカードに儀式/Retualのアイコンがあるたびに儀式トラックが進み、魔力が溜まっていく。最大まで魔力が溜まるやいなや、
ドーーーーーン!!!
……。
全てを焼き尽くす光。大いなる消失呪文/The Greater Vanishment Spellが解き放たれ、敵味方区別なく破壊する。甲板や周辺の海にいた”深き者”はもちろん、甲板まで逃げていた乗客は全て蒸発。巻き込まれた乗客の分、人命/Soulsがもりもり減ることになる。南無三……。
もちろんプレイヤーのキャラクターも例外ではない。負傷時の処理を行うことになる。『人間』なら治療室へ。正体を現した『ハイブリッド』なら営倉へ。
上手く使えば敵を一気にやっつけられるものの、勝手に発動するので扱いはかなり難しい。『ハイブリッド』側のプレイヤーはこれを利用して乗客の一掃を狙うことも可能だ。
利益にも被害にもなり得るこのギミックはそれぞれの陣営の狙いが交錯する。このゲームの熱いポイントの1つだ。
航海の終わり
アトランティカ号が無事ボストンの港まで辿り着くまで、もしくは運航不能になるまでこの航海は続く。
旅/Travelトラックが溜まりきるたび、「船長」になっているプレイヤーは航路/Waypointカードを2枚引き、自分だけで確認して行き先を決める。航路カードには目的地にどれだけ近づけるかの数字と、その航路を選択することで何が起きるのかが書かれており、それらを比べ「船長」は自らの判断で行き先を決めなければならない。
選ばれた航路カードは並べておき、船がどれだけ目的地に近づいているかを表示する。この数値の合計が12を超えたあと、再び旅トラックが溜まりきればボストンに到着。晴れてゲームエンド。『人間』プレイヤーの勝利となる。
ボストンに辿り着くまでに船が破壊されるか、航行に必要なリソースが1つでも枯れればやはりその時点でゲームエンド。『ハイブリッド』プレイヤーの勝利だ。
隣の人物を本当に信用してもよいものか……。疑り疑われしつつ怪物を退け無垢な乗客を救い、船の舵をとりボイラーで火を焚く。あげく本から火は出るわ、隣の奴は魚臭くなるわで大混乱な大西洋横断の旅。
Unfathomableはクトゥルフ好きはもちろん、正体隠匿ゲーが好きな人にもおすすめできる一品。キャラクターも多ければスキルカード以外はみんなユニークでリプレイ性も抜群。遊ぶたびに異なる展開で疑心暗鬼なプレイを楽しめるだろう。
あなたも深淵を覗いて、パパダゴンとママヒドラに遭いに行こう。
*1:"深き者"化した人間