Diesel

ボードゲームを中心とした記事を書きます。

アンドロイド:ネットランナーというボードゲーム

未来へようこそ

 日本語版の説明書の一番最初に書かれている一文だ。

 その文が示す通り、アンドロイド:ネットランナーは未来の地球で社会の大部分を支配する企業とそれに属さないアウトローであるランナー達による、高度に発達したネットワーク上での戦いをモチーフにした2人用の対戦ゲームである。

 罠を張り待ち受けるコーポ。プログラムをインストールして挑むランナー。
 ブラフを交えた熱い心理戦による攻防と、サイバーパンクのダークな世界観が楽しめるのが本作だ。

 

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アンドロイド:ネットランナー 完全日本語版

 私は2018年のボードゲームフリーマーケットで安く売られていたこのゲームに出会って以来、すっかり虜になってしまった。
 元々ボードゲームに関しても同じゲームを何度も繰り返し遊びたい派の人間であったが、それまでと比較にならないくらいのめり込んだ。そして残念なことに、出会って数か月後には最後の拡張であるReign and Reverieが発売され、Fantasy Flight Gamesによるこのゲームの展開終了がアナウンスされた。

 

 こんな面白いゲームが終了しちゃうの!?
――と当時かなりショックを受けたのを覚えている。もっと早くこのゲームのことを知っていれば……というのは嘘になるが(以前から存在自体は知っていたが、ボードゲームとして2人でしか遊べないものに興味がなかった)、日本でも盛り上がっているうちに遊びたかった…とは思った。機会を逃したことを今でも悔しく思う。

 

(とは言え、これ以上拡張が出ないだけじゃないか。ゲームとして遊べなくなったわけではあるまい……)と自分に言い聞かせ、一緒に遊んでくれる仲間を探して集めてプレイ会を開くようになった。

 

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プレイ会の様子

 

 更に、このゲームを終わらせるにはもったいないと思った有志の団体Niseiが同人活動としてこのゲームの開発・サポートを非公式に引き継ぎ、大会の開催や新しいカードの開発を進めてくれている。

 このゲームはまだまだ進化する。
 ルールが読みづらいという悪評があるが、ルール自体は一般的なTCGよりずっと簡単である。(自分でルールを読み解くより、ルールを知っている人のインストを受けることを強くおすすめする。)

 私はこの最高に面白いゲームの魅力をちょっとでも多くの人に知ってもらいたいと思っている。

 

カードゲームじゃないの?

 アンドロイド:ネットランナーは日本で一般的に流通しているトレーディングカードゲームTCG)とは異なる、Living Card Game(LCG)である。
 LCGでは、パックの中にその拡張のカードが3枚ずつ全て含まれている。TCGのようにランダム封入ではないので、パックを1つ買えばそのカードプールを全て手に入れることができる。その分パック1つの値段はするが、目的のカードが出るまでいくつもパックを開封しなければならないTCGに比べれば遥かに安くカードを揃えられる。

 さらにこのゲーム、非対称なルールで戦いそれぞれ異なるカードを使うため、コアセット1つ買うだけでプレイヤー2人分のカードが揃うのである。(お互いに同じサイドのデッキを組みたければカードを融通し合う必要はあるが)

 コアセットを買うだけでひとまず遊ぶ環境が整うし、拡張を買えば決められたカードを手に入れられる。

私がアンドロイド:ネットランナーボードゲームと呼ぶ所以である。

 

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カード裏。ランナー(左)とコーポ(右)


 上記の通り、このゲームではプレイヤーはそれぞれ異なる役割を演じることになる。

 

 1人はコーポ。
 この世界で成功を収め、支配力を持った大企業を担当する。
 人々のためを謳い、時には裏で手を回して邪魔者を排除し、更なる利益や支配の獲得を目指す。

 もう1人はランナー。
 広大なネットワークにジャックインしてあらゆる情報に触れられる力を持ったハッカーだ。
 コーポのサーバーに侵入し、盗み、破壊する。

 

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カードを使うことは選択肢の1つである

 私がこのゲームにおいて最も魅力的だと思っているのは、基本アクションとクリックという仕組みである。
 それぞれのターンの開始ごとに、ランナーは4クリック、コーポは3クリック(コーポだけ強制ドローがあるので少ない)与えられ、そのクリックを消費して行動する。クリックの使い道はカードをプレイしたりカードの能力を使ったりだけでなく、基本アクションとしてカードをドローしたり、カードを使うためのコストであるクレジットを得たりできる。ランナーであればコーポのサーバーに対して攻撃する「ラン」を仕掛けることも可能だ。

 

 アンドロイド:ネットランナーはカードを使うゲームであるが、ゲームを進行するための基本的な行動がカードに依存しない。カードの能力のほとんどはあくまで基本アクションを拡張するものである。(もちろん例外もある)
 極論を言えば、カードを1枚も使うことなくゲームに勝つことだってあり得ないわけじゃない。

 プレイヤーはそのターンのクリックを何に使うか吟味し、毎ターンの自分の行動を決めることができる。カードを使うためのクレジットが足りなければクレジットを稼ぐことができるし、十分なクレジットがあるなら強力なカードをプレイしたりインストールする選択肢がある。
……手札に使いたいカードがない? クリックを使ってドローもご自由に。

 

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アクションサマリー

 

コーポのプレイ 

 コーポはカードを裏向きで場に出す。秘密裏にランナーを陥れる罠を張り、ばれないように計画を遂行していく。

 コーポのデッキには計画書(Agenda)というタイプのカードが、計画ポイントの合計が20点か21点*1になるように含まれている。
 計画書カードにはそのカードを得点化したときに得られる勝利点である計画ポイントと、得点化するために必要なアドバンスカウンターの数であるアドバンス要求が記されている。

 勝つためには計画書を得点し、7計画ポイント集めればよいのだ。

 

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派閥ごとに様々な計画書が存在する

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 コーポが計画書を得点するためには、計画書カードをインストール(※場に出すこと)し、その上にアドバンス要求を満たすようにカウンターを置く必要がある。

 アドバンスカウンターをカードの上に置くカードももちろん存在する。…が、通常はこれを基本アクションで行う。

クリック, 1クレジット:カード1枚をアドバンスする

  アドバンスするとは、厳密な説明はここでは省くが、インストールされたカードの上にアドバンスカウンターを置くことである。

 

 例えば上記画像の、アドバンス要求5の計画書《優先請求》を得点しようとするとしよう。

 コーポに1ターンで与えられるクリックは3。計画書を遠隔サーバーにインストールして2回アドバンスするとクリックを全て使い切ってしまう。

 これではインストールしたターン中にアドバンス要求の数だけアドバンスすることは不可能。つまり得点するには2ターン以上必要な計画書だというわけだ。
 これを次の自分のターン以降に得点化するためにも、ランナーのターンの間計画書を守りきらなければならない。

 

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2回アドバンスされたカード

 

 コーポが使えるカードの中にはICE(アイス)というタイプのものが存在する。
 ICEはサーバーを守るための電子的な障壁で、サーバーに侵入しようとする者をシャットアウトしたり、時にはランナーの商売道具であるプログラムやハードウェアを破壊し、脳を焼く。

 裏向きにインストールされたICEの機能は、それが稼働を開始するまで基本的にランナーに知られることはない。

 レゾ(コストを払って表に返すこと)した瞬間のランナーの驚く顔を見ることはコーポにとって最も楽しみな瞬間かもしれない。おいしい餌(計画書)にのこのこ釣られたランナーを罠にはめるのもこのゲームの醍醐味だ。

 

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ランナーを待ち受ける様々なICE

 

ランナーのプレイ

 ランナーの目標は計画書の奪取。
 必要な道具を揃えてランを計画し、実行に移す。計画書のありそうなサーバーに侵入し、計画書を見つけ出すことができればアクセスしてそれを盗む。これを繰り返して7点分の計画書を盗めばよい。

 ランナーは計画書がインストールされるであろう遠隔サーバー以外にも、コーポの手札(HQ)・山札(R&D)・捨て山(アーカイブ)がそれぞれある中央サーバーに対してランを仕掛けることができる。
 HQ(司令部。手札のあるサーバー)に侵入すればコーポの手札から1枚無作為に選んでカードにアクセスする。R&D(研究開発部。山札のあるサーバー)に侵入すれば山札の一番上のカードを、アーカイブ(記録保管部。捨て山のあるサーバー)に侵入すればそこにある全てのカードにアクセスする。

 

 コーポがICEで守りを固めたサーバーに侵入するにはどうするか?
 もちろんランナーには対抗策がある。ICEの機能を妨害し、安全に通過するためのプログラム、アイスブレイカだ。

 

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ICEへの対抗手段

 

  ICEは主にコードゲート・セントリー・バリアの3種類のサブタイプのいずれかを持っている。
 アイスブレイカーはそれぞれ対応できるICEのタイプが決まっており、例えばデコーダーである《ゴルディアン・ブレード》であればコードゲートであるICEに対処が可能だ。

 アイスブレイカーを使うためにはまずクリックとインストールコスト(カード左上の数字分のクレジット)を支払ってインストールする必要がある。ランの最中に対応するICEに出会ったら、更にクレジットを支払ってその機能を起動する。

 アイスブレイカーを用意するにも使うにもクレジットがいる。ICEに対処するとは言っても一時的なもので、ICEの機能を妨害しこそすれ破壊はしない。次に同じICEに遭遇したらまたお金を払う必要がある。ランにはとにかくお金がかかるのだ。

 

 アイスブレイカーを揃えて全てのICEに対処できるようになり、どのサーバーにも自由に侵入できるようになってもランナーが勝つわけではない。
 前述の通りアイスブレイカーの使用にはクレジットが必要で、当然コーポも様々なICEを用いて防御を固めてくるだろう。

 無闇にランしてはいざというときにクレジットが底をつき、ICEを突破できなくなる。ICEによって幾重にも守られた遠隔サーバーにそっと計画書を忍ばせ、ランナーの寂しい懐を見てほくそ笑んでいるコーポを見たくなければ、常に隙を作らないように立ち回る必要がある。

 

 しかし、どうしても無理なランをしなければならない場面も出てくるだろう。上手なコーポはそのような場面を積極的に演出してランを誘い、ランナーの隙を作ろうとする。

 忘れてはならないのは、サーバーを守るのにもクレジットが必要だということ。ICEをレゾ(※伏せた状態から表に向けること)するにもそれ相応のコストがかかる。十分なクレジットがなければ、全てのサーバーを全力で守ることは不可能なのだ。

 遠隔サーバーに怪しいカードがインストールされても、あえて中央サーバーを攻めることでコーポの守りを分散させれば、本命のサーバーの守るためのクレジットを消耗させられるだろう。もしコーポが守りの分散を嫌がるのであれば、ランナーは意外と容易く中央サーバーに侵入できるのだ。

 コーポのブラフを見破り、ICEを突破して計画書を上手く盗み出せたとき、それはまさしくランナーにとって最高瞬間である。

 

 

*1:デッキを構成するカードの枚数によって増減する。